「いや〜先輩、聞いてくださいよ!今期の利益が予想より出そうだったんで、決算の最終日に慌てて最新のハイスペックパソコンを5台、一括で買ったんです!これでバッチリ今期の経費に落ちますよね。いや〜、滑り込みセーフで賢い節税しちゃいました!」
居酒屋の席につくなり、冷えた生ビールを喉に流し込んで満足げに胸を張る後輩のA君。ジョッキを置いた彼の顔を見ながら、私は手元の枝豆を口に放り込んだ。
「お前、なめてるだろ〜?」
「えっ!?何がですか?ちゃんと決算日までの日付の領収書もありますよ!?」
目を丸くするA君。実は彼のように、個人・法人を問わず、「決算期末までに買いさえすれば、その年度の経費になる」と勘違いしている経営者はめちゃくちゃ多い。
でもね、税金の世界はそんなに甘くないんだ。結論から言うと、「買っただけ」じゃ経費にはならないんだよ。
今夜は、決算間際に多くの経営者がハマりがちな「駆け込み購入の罠」について、テキトーに、でも真面目に語ってみようか。
パソコンはどこにある?「使った時」が本当のスタート
「ええっ!買ったのに経費にならないんですか!?領収書もあるのに!?」A君の焼き鳥を持つ手がピタッと止まった。
「じゃあ聞くけど、その買った5台のパソコン、今はどこにあるの?」
「え?あ、いや……段ボールに入ったまま、まだオフィスの隅に積んであります。設定が面倒なんで、来期(新年度)になってからみんなで開封して使おうかなって……」
「それだよ、それ。それがアウトなんだ」
税金のルールでは、パソコンのような数年間にわたって使うもの(減価償却資産)は、単に「買った日(取得日)」ではなく、「事業のために使い始めた日(事業共用日)」がある年度に初めて経費(償却)として認められる、という超重要な決まりがあるんだ。
つまり、どんなに決算書の日付が期末ギリギリで間に合っていても、段ボールに入ったまま新年度を迎えてしまったら、そのパソコンは今期の経費には1円もならない。新年度の経費になってしまうんだよ。
「ま、マジですか……。じゃあ僕がやったのは、今期の節税じゃなくて、ただ今期のキャッシュを減らしただけ……?」ショックのあまり、A君が頭を抱えてしまった。
必勝法は「余裕の取得」と「年度内の電源ON!」
完全にフリーズしてしまったA君に、私はビールをおかわりしながら、次回から失敗しないためのアドバイスを授けることにした。
「まぁ、終わってしまった今期は仕方ないとして、来期から使える必勝法を教えてあげるよ。対策はシンプルに2つだけだ」
まずは、「決算期末ギリギリの購入は避けて、余裕をもって取得すること」。ギリギリに買うから、配送が遅れたり、設定が間に合わなくなったりして段ボールのまま年を越すことになるんだよね。
そして2つ目は、「買った年度のあいだに、必ず使用を開始すること」。極端な話、パソコンなら決算日までに段ボールから出して、デスクにセッティングして、電源を入れていつでも仕事に使える状態(通電)にしておく。そこまでやって初めて「今期の経費」として認められるスタートラインに立てるんだ。
「なるほど……!『買った日』じゃなくて『使い始めた日』。次からは絶対に決算の1ヶ月前には買って、全員で即開封して電源入れます!」覚えたての知識を忘れないように、A君は手元のメモ帳に必死に書き込んでいる。
今夜のまとめ:経営者としての教訓
「いや〜、形だけ揃えても中身が伴ってなきゃダメってことですね。勉強になりました」
「その通り。居酒屋で『とりあえず生ビール!』って頼んだのに、ジョッキがカウンターに置かれたままで、こっちのテーブルに届かなきゃいつまで経っても喉は潤わないだろ?それと同じさ」
「例えが分かりやすいんだか、テキトーなんだか(笑)」
お金を払っただけで満足してしまうのは、経営者が一番陥りやすい落とし穴。節税は計画的に、そして「使うところまでがセット」だと覚えておかないといけないね。
「先輩、本当に助かりました!……じゃあ、今夜のこのお会計も、僕が『来期の経費』として多めに払っておきますね!」
「いや、今夜飲んだビールは今夜のうちに胃袋で『消費』されてるから、今期の割り勘で頼むよ(税務署より厳しいチェック笑)」
居酒屋の夜は、こうして賑やかに更けていくのだった。
(おしまい)
